今日、俺は人を殺した
理由は簡単だった、カッとなったから、ただそれだけ。
目の前にいる人物が気に入らなかったから、ポケットに忍ばせていたナイフで刺した。
最初は一刺しするだけのつもりだったけど、抵抗してきたのでもう一回、さらにもう一回刺した。
不思議な高揚感と、今までに感じたことのない、ある意味快感にも似た変な感覚が全身を駆け巡り、
気づいたときにはさっきまで普通に息をしていた人間が、胸や腹に何箇所も穴を開けたただの肉の塊になっていた。
急に怖くなって逃げ出そうとしたが、悲鳴を聞いて駆けつけた大人たちに押さえつけられ、すぐに警察に連れて行かれた。
何を聞かれたかは正直あまり覚えていない、お前がやったのか?と訊かれたときにだけ
「はい、俺がやりました」
とだけいって、後は下を向いて黙っていた。
聞き流すのは簡単だった、ただ、いつも授業中にやっているようにすればいい、
黙ってぼ〜っとしていると、いつの間にか話が終わり、いったん警察から解放され、パトカーで家に帰らされた。
両親は共働きで帰りが遅く、朝も早いので、最近はあまり会っていない
妹が一人いるが、いつも部活で遅いので、家には誰一人いなかった。
何をする気にもなれなかったので、自分の部屋に入ってベッドに横になっていると、いつの間にか寝てしまった。
次の日、俺は部屋の扉が強く叩かれる音で目が覚めた。
いつも無意識の内にかけてしまう鍵を開けると、昨日尋問したのとは違う警察官が入ってきて、
「これから裁判が行われる、早く用意をしろ」と、いった。
それに従い、タンスから適当に出した服を着て、パトカーに乗って家をでた。
しばらくすると、大きめの建物の中の、小さめな部屋に通され、昨日とまったく同じ質問をされた。
部屋の中には両親と妹、裁判官らしき初老の男と、警察らしき男が三人いるだけで、他にはいなかった。
母さんは泣き崩れて、父さんはそれを慰め、妹の明美は複雑な表情をしてこっちを見ていた。
俺はまた、「俺がやりました」とだけいって、黙っていた。
現行犯逮捕だったので、特に弁護などもなく、裁判はすぐに終わり、俺には有罪の判決が下された。
判決が下されると、すぐに俺は三人の警察官に囲まれて部屋から連れ出され、裁判が行われた場所よりももっと小さな個室につれていかれた。
部屋の中には机が一つあり、その向こうに一人の男がいて、俺はその向かいに座らされ、俺を連れてきた三人の男はすぐに退室した。
机の向こうに座っている男は、嫌に笑顔でこっちを見ていた。
すぐに目線をそらそうとしたが、その前に男が話しかけてきた。
「やぁ、何も言わなくていいよ、全部知ってる、人を殺した気分はどうだい?」
一瞬何を言ってるのかわからなかった、さも世間話でもするように訊いてきたからだ。
てっきり俺はまた「なんでやった」とか「こんなことをしていいとおもってるのか」とか、
これからの人生について、だとか、くだらないことを言われたあと監獄に放り込まれるかと思っていた。
けど、ちがった
俺がしばらく黙っていると、男が
「まぁいいか、そんなこと、それよりキミ、自由がほしくないかい?もちろん、学校もない、口うるさく言うやつもいない、
何でもキミの自由にしていいんだ、寝たいときは好きなだけ寝ていいし、外に出たいときは何時でも外に出られるんだ、」
と、いった、そして最後に
「自由がほしくて人を殺したキミには牢屋は似合わない、キミには自由をあげよう、キミに執行する刑は、自由だ」
と、いって、ニッコリした顔をさらにニコニコさせた。
その後すぐに、外に出ていた警察が部屋に入ってきて、俺の手を縛り、目隠しをさせ、耳栓をさせて何も聞こえなくした。
そして、最後に何かの薬品をかがされ、俺は気絶した。
それからどれくらいたったのかわからない、意識は回復したものの
目隠しをされているので、今がいつごろなのかもわからない、
何も聞こえないので、どんな状況におかれているかもわからない
唯一わかるとすれば、なんとなく、波特有の揺れを感じるので、俺は今船に乗っているようだ。
少しして、ふわっと浮かんだかと思うと、すぐに両足が地面についた、どうやら立たされたようだ。
手を引かれるままに歩いていると、硬かった足場が、急に柔らかくなった。
突然だったので、よろけそうになっていると、乱暴に目隠しをはずされ、急に目の前が真っ白になった。
それと同時に目に強烈な痛みを感じたので、硬く目をつぶった、どうやら外に出て、日差しが強いようだ。
しばらくして、目が慣れると、目の前は海、後ろを振り返ると、森があった、俺が今いるのは、砂浜だ。
すぐそばに止めてある船の上に、机の向こう側にいたあの男が立っていた。
男は、前見たときと変わらない笑顔を貼り付けたままで俺に言った。
「気分はどうだい?手荒なまねをして申し訳ないと思っているよ、キミはここで新しい生活を始めるんだ、
大丈夫、この島は無人島じゃない、けど、日本の本土からは結構離れてるから、泳いで帰ろうなんて考えちゃダメだよ、
ここにはキミを知っている人は誰もいない、キミは自由をてにいれた、これからは自分の好きなように生きるんだ」
そういった後に、俺の横を指差して
「そこにあるリュックにはこの島の地図や簡単な食料、着替え、あと少しのお金が入っている、まずは地図を見て町に出てみるといい、
ちなみに、赤いまるをつけてあるところはキミの家だ、それじゃあ、これで、もう会うこともないだろう、元気でな」
男が言い終わると、船はすぐに出港した。
俺は足元に置かれていたリュックの中から地図を取り出し、それを頼りに「俺の家」とやらに行くことにした。
森に入って少し歩くと、すぐに住宅街のような場所に出た、地図のとおりに歩いていくと、青い屋根の小さな家があった。
どうやら赤丸の家はここらしいので、玄関の扉を開けようとすると、鍵がかかっていた。
なんとなくリュックをあさってみると、小さな鍵が見つかったので、それを差し込んでみると扉はあっさり開いた。
家に入る前に、隣の家の庭で小さな男の子と遊んでいた母親らしき女性がこちらをみたので、軽く会釈してから家に入った。
家の中はいたって普通、タンスや食器棚、冷蔵庫や洗濯機だってあるし、ちゃんと水道から水も出た。
いくら自由で何をしてもいいからといって、いきなり何か思いつくようなものでもないし、
ましてここから逃げようなんて気力もないので、とりあえずコンロの上に乗っかっていたヤカンに水をいれ、火にかけてお湯を沸かし、
リュックの中に入っていた大盛りカップ味噌ラーメンにお湯を注いで、壁にかかっていた時計をぼ〜っと眺めて三分待つ。
途中で面倒くさくなったので、二分三十秒ほどでふたを開け、一気に中身をすすった。
今まで気づかなかったが、相当の間何も口にしていなかったのか、食べなれているはずのカップラーメンがやけにおいしく感じた。
何もすることがないのでソファーに寝そべって、テーブルにおいてあったテレビのリモコンを持ってテレビに向け、電源ボタンを押す、
が、どうやら主電源が入っていなかったらしく、何も起こらなかった、しぶしぶ腰を上げて、テレビの右下の端についているボタンを押す。
たまたまかかっていたニュースを、再びソファーに寝そべってみていると、俺のことがやっていた。
俺が刺し殺したやつの顔写真が端に表示され、俺のことは加害者の男子高校生、という情報しか公開されなかった。
次に被害者の遺族のインタビューが写ったが、なんとなくこれ以上見てもつまらないと判断したのでテレビを消した。
その後少しの間天井を見ながら、両親はどうしているか、明美は今日も元気に学校にいっているだろうか、など、いろいろなことを考えていた。
さっきのニュースを見ても特に何も思わなかった、罪悪感も感じなかったし、一瞬、今までのことは全部夢で、
今に目が覚めて、またいつものようになんでもない日々が始まるんじゃないだろうか、と思ったが、
あの人を刺したときの嫌な感触が今でも手に残っているかのようにはっきりと思い出せたので、変な希望を持つのはすぐにやめた。
考えることもなくなって、うとうとしていると、「ピンポーン」と、家のチャイムらしき音が響いた。
おそらくこの家のものだろうと思い、玄関に行き、覗き穴から扉の向こうを覗いてみると、
何かの配達員のような格好をした青年が営業スマイルを顔に貼り付けて立っていた。
とりあえず、俺にきた客だろうと思い、扉を開けると、目の前に何か黒い穴が向いていた。
あまりに顔の近くだったがために、とっさに顔を右にそらすと、何かが破裂したような大きな音が聞こえて、左頬を何かが掠めた。
あまりの音の大きさにびっくりして、しりもちをつく、なんだか左頬が痛い、と思い手を当ててみてみると、手のひらが真っ赤に染まっていた。
何事かと思い、青年のほうに目を向けると、青年の手のひらに握られているものからさっきの穴がまたこちらを向いていた。
離れてみて初めて気づいた、それは銃口だった。
コイツはいま俺に向かって発砲し、俺は危うく頭を吹っ飛ばされるところだったのだ、
頭ではわかっていても、身体は凍りついて動かなかった。
青年の右手に握られている拳銃の引き金に人差し指が引っかかり、今にも引きそうになった。
もうだめだ!と思い、目を瞑ると同時に、発砲音があたりに響き渡った。
まだ俺は生きていた、恐る恐る目を開けてあたりを確認すると、俺の股の間の床に直径一センチほどの穴が開いていた。
そのまま顔を上げて青年を見た。
笑っていた、声を上げて笑っている。
狂ったように笑いながらも、銃口は常にこちらに向いている、青年はもう一発発砲した、
今度は右頬に触れるか触れないかの位置を銃弾が掠めていく、青年はさらに大きな声で笑い出した。
「狂ってる、、、」
俺の口から勝手に声が出た、声が震えていた、脚も震えている、
青年は明らかに、俺の反応を楽しんでいた、俺の顔に恐怖が増していくほどに、新しい遊びを見つけた子供のように笑顔になっていく。
次の一発が頭の上を通過したとき、俺は弾かれたように飛び出した。
青年に全身で体当たりして、そのままの勢いで外に飛び出す。
隣の家の庭に飛び込んで、助けを求めた。
「助けてくれ!変なやつが家に来て発砲して、、とにかく殺される!!」
そこまで一気に言って、俺はここに逃げ込んだことを後悔した。
男の子とその母親がこっちを見てる、だが、あわてたりするような様子はなく、
まるで物を見るような感情のこもっていない目で俺を見つめていた。
「きえぇーーーー!!!」
始めに動いたのは男の子だった、猿の鳴き声のような声を上げてこちらに向かってくる。
手には何か棘のついた棒のような物を握っていた、それを俺に向かって思い切り振り下ろす。
しかし、所詮相手は小さな男の子だったので、びっくりした俺が反射的に思い切り脚を振り上げると、
ちょうど男の子の腹にあたり、ボールが飛んでいくような勢いで宙に舞い上がり、家の壁に激突して動かなくなった。
鼻や口から出血している、どうやら内臓が破裂したようだ。
「う、うわ、ごめん、そんなつもりは!」
俺は必死に何か言おうとするが、言葉が出てこない
しかし母親はそれを見てもまったくうろたえなかった、着ていたエプロンのポケットから刃渡りの短い果物ナイフのようなものを取り出すと、
それを握ってすごい勢いでこちらに突進してきた、必死に俺がそれをよけると、
さっきまで俺の家の玄関でうずくまっていた青年が俺の方向に発砲し、ちょうど俺がよけたところにいた女のわき腹を銃弾が貫く。
当たり所が悪かったのか、噴水のように真っ赤な血液を撒き散らしながら、女はその場に倒れた。
あまりの恐怖に全身が凍りつき、女を中心にどんどん血溜まりが広がっていくのから目が離せなかったが、
横から聞こえた発砲音と、目の前を通り過ぎていった銃弾で我に返り、俺はその場から駆け出した。
森を抜け、砂浜に出て、それからしばらく当てもなく海沿いを走っていた。
息が切れ、脚が棒のようになってしまって、倒れこむように砂に膝をついた。
幸い誰かが追ってくる気配はなかった。
呼吸を整え、あたりを見回すと、地平線のかなたに太陽が沈んでいくところだった。
すっかり疲れ果て、空腹を感じていると、何かが焼けるようないい臭いがしてきた。
危険は承知だが、野垂れ死ぬのは嫌なので、警戒しながら臭いのするほうに歩いていくと、
一人の老人が砂浜に焚き火をして、魚を焼いていた。
気づかれないように背後から忍び寄り、ポケットに入っていたナイフを背中にむけながら
「おい、その食料、こっちによこしな」
というと、
老人はおびえたような顔でゆっくりとこっちを向いた。
「な、、何じゃ、、お前さんもワシを殺そうとするのか?」
老人は、手には魚を刺した木の枝しかもっておらず、とてもみすぼらしい格好をしていて、武器は隠し持っていないようだった。
俺は、乾いて黒ずんだ血がついたナイフを向けながら、ゆっくりと近づいていった。
俺は半ば強引に老人の食料を半分奪い、砂浜に腰を下ろしてそれを食べた。
一応老人は昼間のようなやつらのように攻撃してくる様子はなかったので、
いつでも取り出せるようにナイフをしまってから、話しかけることにした。
「なぁ、爺さん、ここはいったいどこなんだ?いや、なんなんだ?爺さんも殺されそうになったのか?
俺はさっきいきなりナイフで刺されかけたり、銃で撃たれたりしたぞ、これがそうだ」
俺は左頬の傷を指差して言った
「なんでも、俺が連れてこられたときには、自由の島だ、とか言われたんだ、爺さん、なんかしってるか?」
そこまで言うと、今まで黙っていた老人が口を開いた
「その通り、、ここは自由の島じゃ、、何をやっても許される、というより、何をやっても咎められない、お前さん、人を殺したんじゃろ」
老人は静かに俺の眼を見た
「何でわかるんだ」
俺はあまり生気を感じないその目を睨み返した
「わかるも何も、、ワシもそうじゃ、かれこれ三十年も前に人を殺した、、それでここに来た、ここにいるやつらはみんな狂ってる。
それもそうじゃ、何をやっても自由、昼間から酒を飲もうと、女遊びをしようと、薬をやっても人を殺しても自由なんじゃ
ワシも始めの頃は欲望のままに動いていた、だが、どこに行っても、どこを見てもワシを殺そうとするように見えてきてな、
ここにいるやつらは全員人を殺してここに送られた、殺人をすることに何の疑問も持たない、そういうやつらが殆どじゃ」
そういって老人は静かに目を伏せた、そして疲れたようにため息を吐いた
「そして、ワシはあの街から逃げ出した、森や海岸を少しずつ移動しながら生活しておる、何度逃げ出そうかと思ったが、
無理じゃった、一度はイカダを作って海にでたこともあったが、沖に出ると潮の流れが激しくてすぐに流されて戻ってきてしまったよ」
「そうか、、、」
俺がそういうと、しばらくの間、二人とも何もしゃべらなかった、波の音だけがやけにうるさくあたりを満たしている。
老人がゆっくりと立ち上がっていった
「だけどお前さんはまともじゃ、無理もない、まだこんなに若いんじゃからの、
どうじゃ、よければワシと一緒に暮らさんか、誰にも見つからない、いいところを知っているんじゃ」
「本当か?」
一瞬疑ったがもうあの家には戻れないし、何も持たず飛び出してきてしまったに気づき、
このままだとどうにもならないので、やむを得ず老人の申し出を受けることにした。
「しかたないな、よろしく頼むぜ」
そういうと、老人が手を差し伸べてきたので、立ち上がって手を握り、硬く握手をした
「さ、そうと決まればもう夜も更ける、冷えてくるからの、早速ゆくとするかの、あっちじゃ、あっち」
老人が焚き火を消しながら俺の背後を指差す
「ん、そうか」
俺はそちらを向いて老人を待った。
火を消し終わると、老人が真後ろから俺の方に手をおいていった
「それじゃ、いこうかの」
その声を聴き終えた瞬間、俺の背中に冷たくて固い感触がした後、すぐに生暖かいものが広がった
「ぐぅ!?」
続けざまに二回、三回と背中に衝撃が走る、急に膝から力が抜け、俺はその場に崩れ落ちた
「じ、、ジジィ、、てめぇ、、!!」
大量出血で薄れそうになる意識を何とか持たせながら、俺は老人を睨みつける、
渾身の力を込めて起き上がり、ポケットに手を入れたが、そこに俺の望むものは入っていなかった
「これで人を殺したんじゃな、良い切れ味じゃ」
老人の手には俺の血にまみれた俺のナイフが握られていた
「くそぉ、、、」
俺はそのまま仰向けに地面に倒れこんだ、もうどこにも力が入らない、確実に死がすぐそこまで迫ってきていた。
老人の目はいまや生気に満ち溢れ、ギラギラと輝いていた
「人殺しは何度やってもいいのぉ、そう思わんか、坊や」
恍惚とした顔で俺を見つめ、心のそこから殺しを楽しんでいる声でそういった
「狂って、、やがる、、、」
最後の力で罵声を浴びせる、俺はもう息も絶え絶えで、目の前が真っ暗になってきた
「言ったじゃろ、ここにいるやつらはみんな狂ってる、ワシもその中の一人じゃよ」
そういって老人は俺の上にまたがり、的確に俺の心臓をナイフで貫いた。
衝撃は伝わってくるものの、すでに全身の感覚はないので、痛みは感じなかった。
「ゆっくりお眠り、坊や」
やけに遠くでそんな声が響いて、俺の意識は闇に消えた
薄暗いあまり大きくはない部屋に、白衣を着た数人の男がいた
一人の中年の髭の濃い男性がいすに座ったまま、部屋の中央にある機械に近寄る、
壁際で大きなコンピュータを操作しているメガネをかけた男が何かを入力すると、
髭の男の近寄った機械のふたが開き、中には一人の少年が入っていた
「おぉい、少年、いきてるか〜」
髭の男が少年の頬を軽く叩いて声をかける、少年の目は虚ろで、頬には涙の跡があった
「だいじょぶっす、死んではいないっすよ」
コンピュータのそばにある計器を見ていた背の高い軽いのりの青年が髭の男にいう
「そうかそうか、なら良かった、この少年を殺してしまったら、こっちが殺人犯だからな」
髭の男がそういうと、部屋の中にどっと笑いがあふれる
「あはは、そっすよねぇ、殺人犯を手っ取り早く更正させるはずの俺達が殺人犯じゃしゃれにならんっすよねぇ」
青年が腹を抱えて笑う
「さ〜てと、一仕事おわったぁ、よし!この後飲みいっかぁ!俺のおごりだ、ついてこい!」
髭の男が立ち上がって言う、体つきがガッチリしていて、若々しいが、ほんの少し中年太りがあった
「いよっ、太っ腹!もっと肥えていいぞ!」
メガネの男がそういって笑った
「うるせぇ、これ以上太ったら嫁さんに逃げられちまう」
髭の男そういって豪快に笑った
「そうと決まれば後片付けっすね、計器、以上ないっす」
青年が仕事をするまじめな顔に戻って言う
「システム、以上ねぇ、データをまとめておきたいから少し待ってくれ」
メガネの男がそういってキーボードを叩く
「おう、それじゃあ、、おい、救護、お前この少年を医務室に運んでやれ、
なぁに、後は看護師にまかしときゃいいんだって、小一時間で少年も意識を取り戻すさ」
髭の男が部屋の隅で椅子に座っている丸顔で小太りの物静かな男にいう、
男は黙ってうなずいて少年を抱き上げた
「おい、すぐ戻って来いよ、早く来ないとおいてくぞ」
小太りの男はニコリと笑って会釈して部屋をでた
「よぉし、お疲れさんっと、おい、後どれくらいかかる?」
髭がメガネにいう
「15分あれば」
メガネは画面から目を離さずに言った
「じゃあ外で待ってるわ、データまとめて救護が帰ってきたら一緒に来てくれ、おい、行くぞ」
「うっす」
髭と青年は二人で部屋を出た
あたりはすっかり薄暗くなっている
髭と青年は目の前の道路を走る車を眺めながら雑談をしていた
「そういえばあいつ、何やって更正プログラム受けたんすか?」
髭はふかしていたタバコを捨て、足で火を消してから答えた
「あ、なんでも、高校の二者面談のときに担任教師が熱心に成績のことだとかを話してたら突然キレてナイフでめったざしにしたんだと」
「うへぇ、ひどいっすねぇ」
「最近こういうの多いからなぁ、、」
「いったいどうしちゃったんでしょうねぇ、何が悪いんっしょ?」
「さぁな、本人が悪いかもしてないし、世間が悪いかもしれないし」
「確かに、俺らがガキの頃は、タバコはあっても人殺しはなかったっすよねぇ、、」
二人は同時に深いため息をついた
「まぁどちらにせよ、更正プログラムを受けたやつの再犯行率は0%、素晴らしいことじゃないか」
「懲役もなしに釈放で再犯行ゼロはすごいっすよねぇ、やっぱ俺この仕事についてよかったっす!でも、なんでゼロなんっしょ?」
「なんでも、世にも恐ろしい出来事を見せて、精神にダメージを負わすんだとよ」
「うへぇ、それこわいっすねぇ」
「今日の少年は結構ダメージ大きかったからなぁ、この後家族とどこかに引っ越してやり直しても、社会復帰できるかどうか、、、」
「そうすかぁ、、、あ〜、なんか訊かなくてもいいこと聞いちゃったなぁ、、、」
「そうだなぁ、あいつらが人殺しなら、さしずめ俺達は人殺し殺しってとこか?」
髭は懐からタバコを出して火をつける
「殺しちゃいないっすよ、懲らしめてるだけっすよ」
「ま、生きてれば何とかなるってこともあるしな、前向きに考えれば、こんなに早く社会復帰するチャンスをやってるんだから、感謝してもらいたいモンだよな」
「同感っす」
「でもこないだの女の子の時はマズッたよなぁ、途中で泣き喚きだしたかと思ったら失禁までして、
いったいどんなの見せられたかは知らんが、ありゃ精神崩壊直前だったな、いやちょっといったか?
なぁ、俺達がそういうやつの家族からなんて呼ばれてるか、知ってるか?」
「う〜〜ん、、、いえ、わからんっす」
髭は一度大きくタバコの煙を吸い、いったん肺の中で煙を回してからゆっくりと吐き出して言った
「人を人とおもわない人でなし、、、だとよ」
「・・・・・」
二人の間に重い沈黙が流れた
青年がうつむいていた顔を上げて言う
「でも、みんながみんなそういってるわけじゃないっすよね?」
「あぁ、中にはすぐに社会復帰するやつもいてな、そういうやつらからは感謝されてるぞ」
「よかったす、俺、まだまだこの仕事続けたいっすもん」
「あぁ、俺もこの仕事が好きだ、いっぺんも感謝されなかったら今頃首でもつってるって」
髭がそういうと、背後の自動ドアが開き、二人の男が出てきた
「おそい!」
髭が振り返って大声で言った
「おう!ちっとおくれた、すまねぇな」
メガネがそういうと、小太りがペコリと頭を下げた
「んじゃ、みんなそろったんでいきましょうよ!」
男達は夜の街に消えていった
終わり
どうでしたか?楽しんでいただけたなら嬉しいです
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